「いくさ世」の非戦論 ウクライナ×パレスチナ×沖縄が交差する世界

インパクト出版会から表記のタイトルの論文集が刊行されました。このなかで「暴力の人類前史の終りと社会解放に向けて」を寄稿しています。 この拙論で書いたことは、ブログでも何度か書いてきたテーマ(これとかこれ)を敷衍したものになります。論文のタイトルは「暴力の人類前史の終りと社会解放に向けて」と大風呂敷を拡げてしまったのだけれど、到底ののタイトルに相応しい内容とまではいっていないだろうと思います。拙論では、主に暴力を論じるときに、繰り返し参照される定番の議論のなかで、フランツ・ファノンの暴力論とベンヤミンの暴力批判論をとりあげました。そして、シモーヌ・ヴェイユにも紙幅を割きました。ヴェイユはともかくとして(それならアーレントを取り上げるべきだろう、という意見もあるでしょう)、ファノンとベンヤミンへのアプローチは、将来の社会変革の手段から暴力――ここでは主に人に対する殺傷力のある暴力――という選択肢を排除する必要性を述べる上で、避けられない議論だと私が考えたこの二人について、考え方を述べましたが、とくにファノンについての私の見解には、異論がありうるかもしれないと思っています。 ファノンの暴力論 […]

能動的サイバー防御批判(有識者会議資料に関して)その2(終)

Table of Contents 能動的サイバー防御批判(有識者会議資料に関して)その1 1. (承前)サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議 以下では、前稿に引き続き有識者会議に内閣官房サイバー安全保障体制整備準備室1が提出したスライドの順番に沿って、ひとつづつ、論点を洗い出す。本稿ではスライド5以降を取り上げる。このスライドの多くが、22年12月に出された安保3文書の記述をそのまま引用するなど、ほぼ踏襲しており、その上でいくつかの解決すべき論点が出されている。 1.1. (スライド5) 国家安全保障戦略(抄) このスライドで能動的サイバー防御という概念が登場し、この実現のための基本的な方向性を三点にわたって指摘している。この箇所が、有識者会議の基調になっており、第一回の会合冒頭の河野デジタル庁大臣の挨拶でもほぼこの三点のみを強調し、会合の最後に座長から、この三点についてそれぞれ個別の部会を設置して検討することが提案・了承されている。このスライドにある能動的サイバー防御という文言の定義は、「戦略」文書をそのまま引き写した文言であるため、その定義はあいまいなままであ […]

能動的サイバー防御批判(有識者会議資料に関して)その1

Table of Contents 能動的サイバー防御批判(有識者会議資料に関して)その2 1. 能動的サイバー防御をめぐる有識者会議の何に注目すべきか 岸田政権は有識者会議を立ち上げて能動的サイバー防御についての検討を開始するとした。有識者会議は、政府が用意したこの議論の枠組に沿って議論を開始することになる。 第一回サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けた有識者会議(以下有識者会議と呼ぶ)に、会議事務局の説明資料として、内閣官房サイバー安全保障体制整備準備室が作成した資料「サイバー安全保障分野での対応能力の向上に向けて」が提出された。この資料の最後に「本有識者会議における、検討の進め方、重点的に検討すべき点、検討に当たって留意すべき点などについて、ご議論をお願いしたい」と記載されており、この資料はあくまで叩き台という位置づけである。また、河野大臣は、会議冒頭に以下のように述べた。 この能動的サイバー防御に 関する法制の検討を進めていくことになりますが、国家安全保障戦略に掲げられて いる3つの観点、すなわち官民の情報共有の強化、民間に対する支援の強化というの が1点目でございます […]

自衛権の放棄なしに戦争放棄はありえない

1. 戦争放棄の例外 戦争放棄が近代世界において繰り返し世界の理想状態として論じられてきたという意味でいえば、戦争放棄は理念としての座を今でも維持しつづけている。しかし、この戦争放棄には例外がある。唯一「自衛」という条件がこの戦争放棄の例外として戦争を正当化する抜け道を作りだしてきた。だからこそ今私たちが明確に論じなければならないことは、戦争放棄の必須の条件とは、自衛権の放棄である、ということだ。この例外という抜け穴を塞がなければならない。 1795年に出版されたカントの『永遠平和のために』は、現代に至るまで、平和主義の有力なパラダイムとしての位置を占めてきたように思う。たとえば、常備軍の廃止を論じた条では、以下のように軍隊の本質を非人間的な存在であると明確に主張している。 「人を殺したり殺されたりするために雇われることは人間がたんなる機械や道具としてほかのものの(国家の)手で使用されることを含んでいると思われるが、こうした使用は、われわれ自身の人格における人間性の権利とおよそ調和しないであろう」1 人格における人間性の権利に反するものが軍隊であるというこの主張は、人間が物化することに […]

(+972magazine)誰もガザの訴えに耳を貸さない – 指導者たちも含めて

(訳者前書き)以下は+972マガジンに掲載された匿名の記事を飜訳したものだ。ガザに暮すジャーナリストからのレポートだが、状況の客観的な報告というよりも、むしろ、この破滅的な戦争を本気になって押し止めようとする統治機構そのものが不在であることを率直に嘆いている。元凶はイスラエルにあることは百も承知の上で、この元凶と闘う正義の旗印のもと、あらゆる民衆の犠牲をも殉教者として正当化して戦うハマースに人々の生存の権利を尊重しようとする意思を、この著者は見いだせないことを率直に語っている。同時に、PLO/ファタハがいったいどこにいるのかすらわからないとも言う。先進国や直接間接に利害をもつアラブの国々も結局のところパレスチナで暮す人々の生存の権利よりも国家間の戦争をめぐる利害あるいは力の誇示を優先しようとしているのではないか、この著者は深く疑っている。私も同感だ。 著者は一刻も早い停戦あるいは戦争の終結を希望しているが、そのために尽力しようとしている政府がどこにもないことに絶望しつつも、しかし、本来ならガザにいる自分たちが街頭に出て、生存の危機と戦争終結を訴えるデモができたら、というほぼ不可能な(な […]

(QUDS New Network)Haidar Eid:ガザのパレスチナ人から南アフリカへの感謝

(訳者前書き)以下は、QUDS New Networkに掲載された記事の飜訳です。QUDS News Netwaorkは、2011年に創設されたパレスチナの若者の電子ネットークニュースで独立系のニュースとしては(イスラエルでは?)最大規模と自身の紹介サイトで述べています。(QUDSは最近大手SNSから標的にされ様々な迫害を受けています。この件については別途投稿しますが、QUDAの編集部によるメッージがあります。(小倉利丸) ガザのパレスチナ人から南アフリカへの感謝By Haidar EidJanuary 12, 2024 南アフリカは、アパルトヘイト国家イスラエルがガザ地区で続けているパレスチナ人の大量虐殺に対する世界の耳に痛いほどの静けさにうんざりしてきた。 イスラエルが過去3ヶ月の間に、包囲された沿岸の飛び地で完全な刑事免責をともなって犯した前例のない数の戦争犯罪と人道に対する罪は、国際法の信頼性を危機にさらし、南アフリカを行動に駆り立てることになった。南アフリカ共和国の法律家たちは、これらの犯罪の証拠を詳述した84ページの文書を作成し、国際司法裁判所(ICJ)において、イスラエル […]

(EBCO、ObjectWarCampaign)ウクライナ、ロシアの平和活動家と良心的兵役拒否者と国際的な支援運動について

(訳者前書き)ロシアに侵略されたウクライによる自国の領土と「国民」を防衛する戦争は、抽象的な言い回しでいえば正義の側に立つ武装抵抗といえる。国家が他の国家の主権に対して武力あるいは暴力による侵略行為を行なったとき、それぞれの国の主権者でもある「国民」という集団に否応なく集約されてしまう人々がとるべき義務に国家を防衛する義務があるとみなすのが通説かもしれない。というのも、近代国民国家では、「国民」とされるその領土において暮す圧倒的多数の大衆が主権者とされる以上、国民とされた人々には国家を軍事的な意味で防衛すること、つまり、命じられれば敵とみなされた人々を殺害する行為に加担することを、正当化しうる価値観が主権者意識と一体のものとして構築される。そうでなければ、国民国家の軍隊は維持できない。 他方で、良心的兵役拒否、徴兵逃れ、軍隊からの脱走、国外への逃避など様々なかたちをとった戦争に背を向ける人々がおり、こうした人々に対して国民国家は、ある一定の条件のもとで、武器を取らないことを選択する権利を認める場合がある。こうした権利が憲法などで条文上で権利として認められていたとしても、実際にはこの権利 […]

(972+)報復戦争への参加を拒否する: イスラエル、徴兵拒否の10代を投獄/独裁に反対する若者たち: イスラエルの新しい良心的兵役拒否者たちに会う

(訳者まえがき)以下に訳出したのはイスラエルの独立系メディア、972+に掲載された兵役拒否の若者たちの記事だ。10月7日以前、ネタニヤフの司法改革(司法の独立性を奪いネタニヤフ政権の独裁を強化する法改革)に反対する広範な運動のなかから、若者たちを中心に「反占領ブロック」と呼ばれる運動が急速に拡がりつつあった。2023年1月に開催されたネタニヤフ政権に反対する大規模な集会で、「アパルトヘイトに民主主義はない」、「他国を占領する国に自由はない」といったスローガンを掲げ、軍への入隊を拒否して刑務所に服役しているイスラエルの10代の若者たちを支持してシュプレヒコールし、「似非民主主義を嘆くのではなく、根本からの変革を求めよう!」と書かれたチラシを配った小さな集団―とはいえ数百人―がいた 。(この記事参照)主流の反ネタニヤフ、反司法改革運動は、極右の路線からかつての路線への復帰を主張しているに過ぎず、イスラエルが抱えている根本的な平等と民主主義の欺瞞の核心にあるパレスチアナ問題に目を向けていないことを鋭く批判した。 こうした運動から昨年9月にテルアビブ中心部にあるヘルツリヤ・ヘブライ・ギムナジウ […]

(+972)破壊を引き起こす口実「大量殺戮工場」: イスラエルの計算されたガザ空爆の内幕

(訳者前書き)以下に訳出したのは+972とLocal Callの調査の全文です。この調査についてのわたしのコメントはここに書きました。関連する記事が次々登場しています。(小倉利丸) (Common Dream)イスラエルのAIによる爆撃ターゲットが、ガザに大量虐殺の ” 工場 ” を生み出した (MiddleEastEye)Israel-Palestine war: How the AI ‘Habsora’ system masks random killing with maths ‘(Gurdian)The Gospel’: how Israel uses AI to select bombing targets in Gaza (DemocracyNow)“Mass Assassination Factory”: Israel Using AI to Generate Targets in Gaza, Increasing Civilian Toll 非軍事目標への大目にみられている空爆と人工知能システムの使用により、イスラエル軍はガザに対する最も致命的な […]

(Common Dream)イスラエルのAIによる爆撃ターゲットが、ガザに大量虐殺の ” 工場 ” を生み出した

​ (長すぎる訳者前書き)以下に訳したのはCommon Dreamに掲載されたAIを用いたイスラエルによるガザ攻撃の実態についての記事だ。この記事の情報源になっているのは、イスラエルの二つの独立系メディア、+972 MagazineとLocal Callによる共同調査だ。 私たちはガザへのイスラエルの空爆を報じるマスメディアの映像を毎日見せらてきた。私は、いわゆる絨毯爆撃といってもよいような破壊の光景をみながら、こうした爆撃が手当たり次第に虱潰しにガザの街を破壊しているように感じていた。その一方でイスラエル政府や国防軍は記者会見などで、こうした攻撃をテロリスト=ハマースの掃討として正当化し、しかもこの攻撃は民間人の犠牲者を最小限に抑える努力もしていることを強調する光景もたびたび目にしてきた。私は、彼等がいうハマースには、政治部門の関係者やハマースを支持する一般の人々をも含むからこうした言い訳が成り立っているのだろう、とも推測したりした。しかし、そうであっても、現実にガザで起きているジェノサイド、第二のナクバを正当化するにはあまりにも見えすいた嘘のようにしか感じられなかった。だが、事態は […]

(LeftEast)私たちは問う:パレスチナ連帯への弾圧はドイツでどのように展開されているのか?

(訳者前書き)ヨーロッパにおけるパレスチナ支持の動きとして、私たちにメディアが報じているのは、日本ではなかなか見られない大規模なイスラエルの軍事行動への批判のデモであったりするが、以下で紹介するドイツの事態は、とても深刻だ。パレスチナに自由を、というスローガンさえ口に出すことが難しい状況があり、パレスチナ支持を公然と掲げるデモも禁止されているという。イスラエル批判をユダヤ人批判とみなす傾向が政府当局や警察の行動の基調になっているようだ。しかし、それだけでばない。下記のインタビューのなかで「Antideutsch」と呼ばれる左翼の潮流の問題にも言及されている。Antideutschという言葉には、反ユダヤ主義がドイツのナショナリズムの根源にあることへの批判が込められていると思うが、その限りで重要な観点を運動化しているともいえるのだが、しかし、これが、逆に、あらゆるイスラエルへの批判を容認しない反パレスチナ、反アラブのスタンスとして露出しているところが問題になっている。日本では、パレスチナ支持を掲げることが、あからさまな弾圧の対象にはなっていないように感じるために、こうしたヨーロッパの運動 […]

(PAAW)被抑圧者の側に立つ。ガザ、イスラエル、そして戦争の論理の否定

(訳者の長すぎる前書き)以下は、戦争に反対する恒久的なアセンブリthe Permanent Assembly Against the War(PAAW)が11月5日に出した声明だ。これまでも私のブログでPAAWの声明などを紹介してきた。この声明はTransnational Social Strike(TSS)のサイトに掲載されたものから訳した。TSSのグループが日本にあるのかどうかや、このグループの背景など詳細を私は知らないが、自己紹介のページ(日本語)では以下のように述べられている。 「私たちは日々、職場や社会の状況が変化していることを経験している。労働争議の組織は、同じ事業所、工場、学校、コールセンターなどで働く人々の間の分裂によって弱体化している。連帯は、国籍、契約、雇用期間、移民の居住許可などの政治的条件、女性に対する家父長制的暴力の違いによって挑戦されている。TSSプラットフォームは、このような状況を打開するローカルな方法はない。国境を越えたつながりを構築する政治運動のみが、このような状況を覆し、共通の力を蓄積することができる、という認識から生まれた。 私たちは過去10年間、 […]

緊急行動 パレスチナ人権団体は、第三国に対し、ジェノサイドからパレスチナの人々を守るために緊急に介入するよう求める

イスラエルの人権団体などが下記の声明(このメールの最後にあります)を出しています。このなかで、「第三国」に政府の責任を、国連のジェノサイド条約に基いて厳しく問いかけています。 日本はG7財務大臣会合の声明で「我々は、今般のハマスによるイスラエル国に対するテロ攻撃を断固として非難し、イスラエル国民との連帯を表明する」と表明しています。「イスラエル国民との連帯」を表明する一方で、パレスチナの市民との連帯は表明されておらず、事実上イスラエル支持を表明したものです。この支持を撤回させ、イスラエルについても断固として非難すべきと思います。 ひとりでもできることはあまりないですが、下記のメッセージを送りました。この内容でいいのかどうか、やや自信がない。もし政府に何かメッセージを送るときは、参考にしてみてください。 件名イスラエル支持を撤回し、ガザへの戦争を終らせる国際的な義務を果すべきです本文前略、以下、強く要望します。日本政府は、イスラエルのガザへの戦争行為を批判し、イスラエルを支持しない立場を明確にすべきです。日本政府は、スラエルが国際法の厳然たる規範に反してジェノサイド行為を継続的に扇動して […]

サイバー領域におけるNATOとの連携――能動的サイバー防御批判

Table of Contents 1. はじめに 安保・防衛三文書に記載された「能動的サイバー防御」という概念は、とくに敵基地攻撃能力(先制攻撃)との関連で、注目を集めるようになってきた。しかし、この定義もなしに唐突に登場する「能動的サイバー防御」の射程は、先制攻撃の枠を大きく越えるやっかいなものだ。 今年六月に、朝日は以下のように報じた。 政府は「能動的サイバー防御」を実現するため、電気通信事業法4条が定める通信の秘密の保護に、一定の制限をかける法改正を検討する。本人の承諾なくデータへアクセスすることを禁じた不正アクセス禁止法、コンピューターウイルスの作成・提供を禁じた刑法の改正も視野に入れる。  また、通信や電力、金融などの重要インフラや政府機関を狙ったサイバー攻撃を防ぐため、海外のサーバーなどに侵入し、相手のサイバー活動を監視・無害化するため自衛隊法を改正するかどうかも検討する。 この報道が正しいとすると、能動的サイバー防御の具体的な実行には以下のような行為が必要になることを政府自らが認めていることになる。すなわち、 ユーザの承諾なしにデータにアクセスする行為は、リアルタイムで […]

能動的サイバー防御批判としてのサイバー平和の視点―東京新聞社説「サイバー防御 憲法論議を尽くさねば」を手掛かりに

東京新聞が9月22日付けで能動的サイバー防御に焦点を当てた批判的な社説を掲載した。社説では、能動的サイバー防御の問題点の指摘として重要な論点が指摘されており、好感がもてるものだったが、「情報戦」への対応についての指摘がないこと、自衛隊などの抜本的な組織再編への指摘がないなど、サイバー領域固有の難問に十分に着目できていないのは残念なところだ。以下、社説を引用する。 政府がサイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」導入に向けた準備を進めている。政府機関や重要インフラへのサイバー攻撃が多発し、対策は必要だが、憲法が保障する「通信の秘密」を侵し、専守防衛を逸脱しないか。憲法論議を尽くさねばならない。  中国軍ハッカーが3年前、日本の防衛機密システムに侵入していたことも報じられている。  現行法では有事以外、事後にしか対応できず、政府は昨年12月に改定した「国家安全保障戦略」にサイバー空間を常時監視し、未然に攻撃者のサーバーなどに侵入して無害化する「能動的サイバー防御」導入を盛り込んだ。近く有識者会議で議論を始め、関連法案を来年の通常国会にも提出する。  ただ、常時監視やサーバー侵入が憲法に […]

能動的サイバー防御批判(「国家防衛戦略」と「防衛力整備計画」を中心に)

本稿は、「能動的サイバー防御批判(「戦略」における記述について)」の続編です。 Table of Contents 1. はじめに 前回は、国家安全保障戦略における能動的サイバー防御の記述を中心にとりあげたが、今回は、国家防衛戦略(以下「防衛戦略」と書く)と「防衛力整備計画」(以下「整備計画」と書く)の記述を中心に批判的な検討を加える。前回検討した「国家安全保障戦略」が外交そのほか国家の統治機構総体を対象にして、国家の―民衆のそれとは対立する―安全保障全体を鳥瞰しつつ軍事化への傾向を如実に示したものだとすれば、「防衛戦略」は、もっぱら自衛隊の動員を前提とした記述だといえるのだが、以下にみるように、ここでの自衛隊の役割は従来のそれとは質的に異なるものになっている。 2. 国家防衛戦略における現状認識 「防衛戦略」のなかで「防衛上の課題」として次にような現状認識を示している。 ロシアがウクライナを侵略するに至った軍事的な背景としては、ウクライナの ロシアに対する防衛力が十分ではなく、ロシアによる侵略を思いとどまらせ、抑 止できなかった、つまり、十分な能力を保有していなかったことにある。また […]

能動的サイバー防御批判(「国家安全保障戦略」における記述について)

本稿の続編があります。「能動的サイバー防御批判(「国家防衛戦略」と「防衛力整備計画」を中心に)」 Table of Contents 1. はじめに 安保・防衛3文書のなかで言及されている「能動的サイバー防御」という文言が、敵基地攻撃能力との関連も含めて注目されている。最初に確認しておくべきことは、これら3文書は、憲法9条と密接に関わる領域についての基本文書であるにもかかわらず、9条への言及はないという点だ。つまり、9条の縛りを無視し、武力行使を念頭に戦略をたてる、というのが基本的な立ち位置だ。この点を忘れてはならないだろう。その上で、このブログでは、これまで正面から取り上げてこなかった安保・防衛3文書における能動的サイバー防御を中心に取り上げる。 「能動的サイバー防御」という概念は、定義がなされないまま使用されており、今後いかようにも政府の都合で意味内容を組み換えることができるので、この概念についての政府による定義を詮索することはできない。だから、この文言が示されている文脈から、この文言の含意を探る必要がある。結論を先取りすれば、能動的サイバー防御とは、「防御」という文言にもかかわら […]

ユーリ・シェリアジェンコへの訴追(付録:ウクライナと世界のための平和アジェンダ、家宅捜索抗議)

(訳者前書き)ウクライナ政府は、ウクライナ平和主義運動(Ukrainian Pacifist Movement)の中心を担ってきたユーリ・シェリアジェンコをロシアの侵略を正当化した罪で正式に起訴したとWordl Beyond Warl.orgが報じ、ウクライナ政府に対する訴追取り下げの国際的な署名活動が始まっている。シェリアジェンコについては、このブログでも紹介してきた。 今回の訴追の詳細は不明だが、「ロシアの侵略を正当化する罪」という犯罪類型そのものが、戦争状態にある国家が、いかに言論表現の自由、つまり政府の政策への異論を主張することを困難にさせるかを如実に示している。しかも、彼が主張する「平和主義pacifism」の基本は、一切の武力行使の否定にある。だからシェリアジェンコがロシアの侵略を正当化したことはない。このことはこのブログで後に紹介する昨年9月に出された「ウクライナと世界のための平和アジェンダ」のなかでもはっきり述べられている。にもかかわらず、警察当局はこのアジェンダをロシアを支持した文書であると強引に解釈している。以下にアジェンダを掲載したのは、こうしたウクライナ当局の「 […]

ロシア・フェミニスト反戦レジスタンスレポート

(訳者前書き)これまでもロシア国内の反戦運動を何度か紹介してきた。以下は、やや前になるが5月1日づけでフェミニスト反戦レジスタンスが出した活動報告の訳。私はロシア語ができないので機械翻訳(DeepL、Ligvanex)を用いている。不正確なところがありうることをご了承いただきたい。以下のレポートにあるように、直接的な行動だけでなく、調査、研究なども精力的にこなし、更に海外の運動との連携も活発だ。東アジアでは韓国との交流が報告されている。 以下のレポートは最近起きた極右ネオナチの軍事組織ワグネルの謀反などの事件以前に書かれているので、こうした最近の事態についてはまた別途紹介いたいと思う。私見だが、反戦運動の観点からいうと、プーチンもワグネルに共通しているのは、戦争遂行を前提としての権力争いだということだ。戦争を押し止める運動との接点はない。(小倉利丸) フェミニスト反戦レジスタンスレポート5月1日FASレポート(28.03.23-27.04.23) ロシア内外の活動家たちは、反戦活動、被害者支援活動、反戦プロパガンダの普及、公共キャンペーンの立ち上げなどを日々続けている。 FASには多く […]

(LeftEast:alameda)ロシアの資本主義は政治的であり、標準的である: 収奪と社会的再生産について

(訳者前書き)この論文は、先に訳したヴォロディミル・イシチェンコとともに同じ論文集(以下のLeftEastの編集部注参照)に収録されたもの。イシチェンコの論文同様、戦争それ自体ではなく、戦争を可能にしているロシア国家による労働力政策あるいは社会政策に焦点を当てている。大方の西側の論調が、左翼であれ右翼であれ、ロシアを資本主義における異例な体制とみなし、だから侵略戦争を引き起こしたのであり、まともな資本主義国家であれば侵略戦争など引き起すはずかがないということ言外に暗示することによって、自らの正義と正統性を強調しようとしてきた。 この論文の著者、リュプチェンコはむしろロシア資本主義を「ノーマル」な資本主義であることをむしろ強調してみせた。イシチェンコがプーチンは狂人だとか、プーチンが独断でやっている戦争だといった観点を厳しく批判したように、リュプチェンコもまた、戦争への動員を可能にしている社会システムを社会的再生産、とりわけ出生奨励主義との関連で論じている点は、日本の労働力政策や社会政策と戦争の歴史をみたときに、いくつもの共通点があるのではないか、ということに気づかされる。増山道康は、「 […]