ブログ - 死刑をめぐる内閣府世論調査とアムネスティの死刑制度反対の声明
内閣府が昨年暮に実施した「基本的法制度に関する世論調査」で死刑制度の是非についての質問に対して、「場合によっては死刑もやむを得ない」と答えた者の割合が85.6%となり、前回調査の81.4%から上昇した。内閣府の「調査結果の概要」によれば、死刑制度を存置する理由として、「死刑を廃止すれば,被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」や「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」、「死刑を廃止すれば,凶悪な犯罪が増える」が過半数を越えている。将来の死刑存置については、「将来も死刑を廃止しない」の回答が6割と圧倒的に多い。また、死刑による犯罪抑止力についても、死刑廃止によって凶悪犯罪が増加するという回答が6割を越えている。
こうした死刑の世論調査の結果は、ほぼ想定された傾向そのものなのだが、では、この世論調査を根拠に死刑制度は容認すべきかといえは、そうではない。この世論調査は、一般の人々が死刑制度の是非について、廃止論と存置論のそれぞれの主張を理解させた上で回答させているわけではない。むしろ、多くの回答者は死刑についてのあいまいな知識やメディアの情緒的で断片的な報道から構築された感情に左右された結果とみる方がいい。なぜなら、死刑の是非の意見は、一般の人々と専門家の間とでは、かなり大きな見解の相違があると思うからだ。
犯罪学者の菊田幸一は、『犯罪学』のなかで、次のように述べたことがある。
死刑制度については一般国民の大多数は、いわゆる無自覚集団であり、一般国民に対する「強制なき同調」を世論に求め、これを利用することの危険性はつねに意識しておく必要がある。(中略)
大衆の無知や誤信をバンドワゴン的効果とし、調査した結果を原動力にしながら、さらに新しい、死刑制度を製造し、大衆をこれに追随せしめることがあるならば、もっとも危険なことといわなければならない。死刑存置の世論は少なくとも利害や関心を共通する意見集団によって形成されなければならない。意見集団の一つの方向を見定め、これを吸いあげ、一般世論を動かしてゆくことが死刑制度についてもっとも要請されるところであると考える
死刑の求刑から判決に至る一連の裁判のプロセスは、被害者の感情をそのまま受け入れてこれを量刑の基本に据えるというようには構成されていない。被害者の感情が基本ということになれば、「法」は存在理由を失う。「法」は、何を犯罪とし、どのような刑罰を科すのかをあらかじめ定めるわけであり、裁判官は法に基づいて冷静な処罰の程度を宣告する。復讐の感情は、被害者やその関係者であれば持つことは十分にありうるし、それは理解できることだが、これを国家が(つまり、刑務官など実際の処罰の執行にあたる者たち)に代行させることは、「感情」である以上できないはずのことだ。これをあたかも「できる」かのようにみなすことによって、国家は、「国民」の感情を味方につけようとするが、これもまた民主主義の残酷な一面というべきだろう。刑罰は感情に還元できない、国家の法に基づく強制的な暴力である。このことを忘れてはならないのである。
アムネスティ・インターナショナル日本は、この世論調査の結果に対して以下のような声明を出した。声明の内容、とりわけ「背景情報」を世論調査の対象者がもし知っていたとしたら、それでも結果は同じだっただろうか。
アムネスティ・インターナショナル日本声明
2010年2月8日
アムネスティ日本<info@amnesty.or.jp>
http://www.amnesty.or.jp/
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日本:死刑に関する情報を公開し、死刑廃止に向けた公的な議論を
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アムネスティ・インターナショナル日本は、日本政府に対して、死刑に関する情報を国民に公開し、死刑廃止に向けた公的な議論を進めるよう要請する。
日本政府は6日、死刑制度を含む法制度に関する世論調査を発表した。アムネスティは、死刑は「生きる権利」を侵害する、残虐かつ非人道的な刑罰であり、世論の動向がどうあれ、このような人権侵害を正当化することはできないと考える。
国連自由権規約委員会は日本政府に対し、第4回日本政府報告書審査において、「人権の保障と人権の基準は世論調査によって決定されるものではないということを強調する」と指摘し、2008年に行われた第5回報告書審査においては「世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」と勧告している。
こうした勧告に沿って、日本政府は、秘密主義のベールで隠されている死刑制度そのもののあり方について、きちんとした情報公開を行うべきである。例えば、死刑囚がどのような処遇に置かれているのか、どのように処刑が行われるのか、などについては、ほとんど明らかにされていない。死刑制度を検討する際には、こうした情報を公開した上で、感覚的な判断ではなく、刑事政策に関するさまざまな要素、例えば、犯罪情勢とその原因、犯罪防止のために必要な方策なども適切に理解されていなくてはならない。
日本政府は、自由権規約委員会の勧告を履行し、日本国民に死刑制度の現状や死刑制度が抱える問題点を知らせるべきである。アムネスティ日本は、日本政府に対し、今回の世論調査の結果のみに左右されることなく、死刑の執行を公式に停止し、死刑廃止を視野に入れた公的な議論を開始するよう要請する。
背景情報
・国連総会は、2007年と2008年に続けて、「死刑の適用の一時停止」を求める決議を、100カ国以上の賛成によって採択している。現在、世界139カ国が死刑を法律上および事実上廃止しており、アジア太平洋地域においても27カ国が死刑を廃止している。東アジアでは、韓国が2008年に事実上の死刑廃止国となり、今年に入ってモンゴルが死刑執行停止を公式に宣言した。台湾も4年以上、死刑の執行を停止している。死刑廃止に踏み切ったこれらの国の多くで、世論の多数は死刑の存続を支持していた。例えば、フィリピンでは、1999年の調査で世論の8割が死刑を支持していたが、2006年に死刑廃止に踏み切った。
・アムネスティはこれまで、死刑制度を含む日本の刑事司法制度について、代用監獄や捜査取調べ中の自白強要など、国際人権基準に合致せず、人権侵害と冤罪の温床になっているとして、再三にわたって懸念を表明してきた。これまでに4人の元死刑囚の冤罪が再審によって明らかになり、無罪判決を受けている。昨年10月には、2008年に処刑された「飯塚事件」の久間三千年さんの再審請求が行われるなど、死刑制度を含む日本の刑事司法制度の見直しが国内外から繰り返し要請されている。
・科学的な研究において、死刑が他の刑罰より効果的に犯罪を抑止するという確実な証拠がみつかったことは一度もない。死刑と殺人発生率の関係に関する研究が1988年に国連からの委託で実施され、1996年と2002年に再調査されているが、最新の調査では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されている。
・犯罪被害者遺族の感情について、アムネスティ事務総長アイリーン・カーンは、次のように述べている。「アムネスティは死刑に反対ですが、死刑判決を受けた者が犯した罪を過小評価したり許したりしようとするものでは決してありません。人権侵害の犠牲者に深くかかわってきた組織として、アムネスティは、殺人事件の被害者には心からの哀しみを共有しますし、その痛みを軽視するつもりはありません。…当局が殺人事件の被害者に近しい人びとを支援し、苦しみを緩和するためのシステムを構築することがどうしても必要です。しかし、加害者を処刑しても、長期間におよぶ遺族の苦しみを癒すことはほとんどできません。それどころか、処刑された人の家族に同じ苦しみをもたらすことになるだけです」
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*参考情報
●『死刑に関する一問一答』
http://www.amnesty.or.jp/modules/mydownloads/visit.php?cid=2&lid=16
●『日本:これが最後の日?−日本の死刑制度(2006/仮訳版)』
http://www.amnesty.or.jp/modules/mydownloads/visit.php?cid=7&lid=8
こうした死刑の世論調査の結果は、ほぼ想定された傾向そのものなのだが、では、この世論調査を根拠に死刑制度は容認すべきかといえは、そうではない。この世論調査は、一般の人々が死刑制度の是非について、廃止論と存置論のそれぞれの主張を理解させた上で回答させているわけではない。むしろ、多くの回答者は死刑についてのあいまいな知識やメディアの情緒的で断片的な報道から構築された感情に左右された結果とみる方がいい。なぜなら、死刑の是非の意見は、一般の人々と専門家の間とでは、かなり大きな見解の相違があると思うからだ。
犯罪学者の菊田幸一は、『犯罪学』のなかで、次のように述べたことがある。
死刑制度については一般国民の大多数は、いわゆる無自覚集団であり、一般国民に対する「強制なき同調」を世論に求め、これを利用することの危険性はつねに意識しておく必要がある。(中略)
大衆の無知や誤信をバンドワゴン的効果とし、調査した結果を原動力にしながら、さらに新しい、死刑制度を製造し、大衆をこれに追随せしめることがあるならば、もっとも危険なことといわなければならない。死刑存置の世論は少なくとも利害や関心を共通する意見集団によって形成されなければならない。意見集団の一つの方向を見定め、これを吸いあげ、一般世論を動かしてゆくことが死刑制度についてもっとも要請されるところであると考える
死刑の求刑から判決に至る一連の裁判のプロセスは、被害者の感情をそのまま受け入れてこれを量刑の基本に据えるというようには構成されていない。被害者の感情が基本ということになれば、「法」は存在理由を失う。「法」は、何を犯罪とし、どのような刑罰を科すのかをあらかじめ定めるわけであり、裁判官は法に基づいて冷静な処罰の程度を宣告する。復讐の感情は、被害者やその関係者であれば持つことは十分にありうるし、それは理解できることだが、これを国家が(つまり、刑務官など実際の処罰の執行にあたる者たち)に代行させることは、「感情」である以上できないはずのことだ。これをあたかも「できる」かのようにみなすことによって、国家は、「国民」の感情を味方につけようとするが、これもまた民主主義の残酷な一面というべきだろう。刑罰は感情に還元できない、国家の法に基づく強制的な暴力である。このことを忘れてはならないのである。
アムネスティ・インターナショナル日本は、この世論調査の結果に対して以下のような声明を出した。声明の内容、とりわけ「背景情報」を世論調査の対象者がもし知っていたとしたら、それでも結果は同じだっただろうか。
アムネスティ・インターナショナル日本声明
2010年2月8日
アムネスティ日本<info@amnesty.or.jp>
http://www.amnesty.or.jp/
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日本:死刑に関する情報を公開し、死刑廃止に向けた公的な議論を
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アムネスティ・インターナショナル日本は、日本政府に対して、死刑に関する情報を国民に公開し、死刑廃止に向けた公的な議論を進めるよう要請する。
日本政府は6日、死刑制度を含む法制度に関する世論調査を発表した。アムネスティは、死刑は「生きる権利」を侵害する、残虐かつ非人道的な刑罰であり、世論の動向がどうあれ、このような人権侵害を正当化することはできないと考える。
国連自由権規約委員会は日本政府に対し、第4回日本政府報告書審査において、「人権の保障と人権の基準は世論調査によって決定されるものではないということを強調する」と指摘し、2008年に行われた第5回報告書審査においては「世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである」と勧告している。
こうした勧告に沿って、日本政府は、秘密主義のベールで隠されている死刑制度そのもののあり方について、きちんとした情報公開を行うべきである。例えば、死刑囚がどのような処遇に置かれているのか、どのように処刑が行われるのか、などについては、ほとんど明らかにされていない。死刑制度を検討する際には、こうした情報を公開した上で、感覚的な判断ではなく、刑事政策に関するさまざまな要素、例えば、犯罪情勢とその原因、犯罪防止のために必要な方策なども適切に理解されていなくてはならない。
日本政府は、自由権規約委員会の勧告を履行し、日本国民に死刑制度の現状や死刑制度が抱える問題点を知らせるべきである。アムネスティ日本は、日本政府に対し、今回の世論調査の結果のみに左右されることなく、死刑の執行を公式に停止し、死刑廃止を視野に入れた公的な議論を開始するよう要請する。
背景情報
・国連総会は、2007年と2008年に続けて、「死刑の適用の一時停止」を求める決議を、100カ国以上の賛成によって採択している。現在、世界139カ国が死刑を法律上および事実上廃止しており、アジア太平洋地域においても27カ国が死刑を廃止している。東アジアでは、韓国が2008年に事実上の死刑廃止国となり、今年に入ってモンゴルが死刑執行停止を公式に宣言した。台湾も4年以上、死刑の執行を停止している。死刑廃止に踏み切ったこれらの国の多くで、世論の多数は死刑の存続を支持していた。例えば、フィリピンでは、1999年の調査で世論の8割が死刑を支持していたが、2006年に死刑廃止に踏み切った。
・アムネスティはこれまで、死刑制度を含む日本の刑事司法制度について、代用監獄や捜査取調べ中の自白強要など、国際人権基準に合致せず、人権侵害と冤罪の温床になっているとして、再三にわたって懸念を表明してきた。これまでに4人の元死刑囚の冤罪が再審によって明らかになり、無罪判決を受けている。昨年10月には、2008年に処刑された「飯塚事件」の久間三千年さんの再審請求が行われるなど、死刑制度を含む日本の刑事司法制度の見直しが国内外から繰り返し要請されている。
・科学的な研究において、死刑が他の刑罰より効果的に犯罪を抑止するという確実な証拠がみつかったことは一度もない。死刑と殺人発生率の関係に関する研究が1988年に国連からの委託で実施され、1996年と2002年に再調査されているが、最新の調査では「死刑が終身刑よりも大きな抑止力を持つことを科学的に裏付ける研究はない。そのような裏付けが近々得られる可能性はない。抑止力仮説を積極的に支持する証拠は見つかっていない」との結論が出されている。
・犯罪被害者遺族の感情について、アムネスティ事務総長アイリーン・カーンは、次のように述べている。「アムネスティは死刑に反対ですが、死刑判決を受けた者が犯した罪を過小評価したり許したりしようとするものでは決してありません。人権侵害の犠牲者に深くかかわってきた組織として、アムネスティは、殺人事件の被害者には心からの哀しみを共有しますし、その痛みを軽視するつもりはありません。…当局が殺人事件の被害者に近しい人びとを支援し、苦しみを緩和するためのシステムを構築することがどうしても必要です。しかし、加害者を処刑しても、長期間におよぶ遺族の苦しみを癒すことはほとんどできません。それどころか、処刑された人の家族に同じ苦しみをもたらすことになるだけです」
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*参考情報
●『死刑に関する一問一答』
http://www.amnesty.or.jp/modules/mydownloads/visit.php?cid=2&lid=16
●『日本:これが最後の日?−日本の死刑制度(2006/仮訳版)』
http://www.amnesty.or.jp/modules/mydownloads/visit.php?cid=7&lid=8
